「自転車の陰」「ホームを歩いて」

「自転車の陰」
今回のスナップは、都会の交差点で信号待ちをしている一瞬を切り取ったものです。

強い日差しが照りつける中で、アスファルトと歩道のコントラストが鮮烈です。主役は、道路に長く伸びた「影」。自転車に乗る人物のシルエットが、実際の姿よりも大きく、そして濃く地面に焼き付けられ、まるでもう一人の存在感を放っています。自転車のカゴや車輪のスポーク一本一本までが影絵のように描かれ、一瞬の「静止」に、深い奥行きとドラマを与えています。

画面上部には、横断歩道の白線や、道路に描かれた自転車のピクトグラムが見えます。これらが都市のルールと秩序を象徴し、その上で繰り広げられる日常の小さな動きとの対比が面白いですね。右下に見える点字ブロックの規則的なパターンも、光と影が織りなすアートの一部となっています。

わずかに見える人物の足元や、ハンドルを握る手の仕草からは、信号が変わるのを待つ穏やかな「間(ま)」が伝わってきます。この場所から、どこへ向かおうとしているのか、どんな一日を送っているのか。影だけが語りかけるこの写真には、見る人それぞれの物語を投影させる力があります。

日常の風景をモノクロで捉えることで、普段見過ごしてしまう「光と影の造形美」や「一瞬の静けさ」が際立ちます。これは、通勤、買い物、通学...私たちのすべての一歩が持つ意味を再発見させてくれる一枚です。

【撮影】
カメラ:FUJIFILM GFX50S II
設定:ISO200 1/640秒
レンズ:不明

「ホームを歩いて」
今回の一枚は、どこか見覚えのある日本の駅のホームをモノクロで切り取った写真です。

色を失った世界だからこそ、光と影のドラマが際立ちます。蛍光灯の冷たい光がホームの奥へと伸びるレールのように、私たちをどこか遠い場所へと誘っているようにも見えますね。天井の鉄骨や柱が作る直線的なラインが、都市の力強さと、忙しなく流れる時間を感じさせます。

主役は、画面中央を歩く一人の女性。黒い服とハイヒール、そして斜めがけのバッグ。その凜とした佇まいが、モノクロームの世界でひときわ目を引きます。彼女の背中を見ていると、これから始まる「何か」への期待や、あるいは過去からの「解放」といった、個人的な物語を想像してしまいます。

足元に描かれた「降車エリア」「矢印」といった案内表示は、この場所が絶えず人々を運び、方向づける「通過点」であることを示しています。周囲には、急ぐ人、立ち止まる人、それぞれの目的地へ向かう群衆が、ブレた動きや静かな影として存在しています。

駅のホームは、毎日たくさんの人が行き交う、日常の中の「非日常」の舞台。このモノクロのスナップは、まさにその一瞬一瞬に宿る、出会いと別れ、期待と不安といった感情の「本質」を浮き彫りにしているように感じます。

何気ない日常の中にこそ、心揺さぶる瞬間がある。この写真が、そんな気づきを与えてくれました。
【撮影】
カメラ:FUJIFILM GFX50S II
設定:ISO1250 1/40秒
レンズ:不明

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