「サラリーマンの歩こう」
都会のビル街で、対照的な二つの「働く姿」が交差する瞬間を捉えています。
画面右側には、白いシャツに黒いスラックス姿のサラリーマンが、ブリーフケースを提げ、足早にフレームを横切っていきます。彼の姿勢からは、約束の時間に遅れまいとする切迫感と、都市のビジネスを動かす一員としての目的意識が伝わってきます。強い日差しを浴びて、シャツと歩道の白さが際立ち、その動きには、現代社会の速度とエネルギーが凝縮されています。
一方、画面中央から左側には、ハッチバックを開けた白い作業車と、そのそばでしゃがみ込んで作業をする人物がいます。彼の前には、おそらく清掃用か搬入用であろう台車と機材が置かれ、地道で具体的な「労働」が行われていることがわかります。彼もまた、この都市の機能を裏側から支える、重要な歯車です。
この二つの姿は、同じ時刻、同じ場所で存在しながら、まるで別々の時間軸を生きているかのようです。一方は、高層ビルの中で抽象的なビジネスを動かし、もう一方は、地面に近い場所で、具体的なメンテナンスやサービスを担っています。
この都市は、ただサラリーマンの活気だけで成り立っているのではありません。彼らの足元を掃き清め、設備を維持し、荷物を運ぶ、名もなき労働者たちの地道な努力によって、この巨大なシステムは毎日動いているのです。
光と影が分断する画面の中で、都市の**「表の顔」と「裏の力」**が交錯するこの一瞬は、働くことの意味、そして社会の複雑な構造を静かに教えてくれているようです。
【撮影】
カメラ:FUJIFILM GFX50S II
設定:ISO100 1/200秒
レンズ:不明
「通り過ぎるあなたを」
駅の地下や建物の屋内にある駐輪場らしき場所で撮影されました。画面の大半を占めるのは、無数の自転車の黒い塊と、中央に立つ人物の真っ黒なシルエットです。
強い逆光と、天井の蛍光灯の光が、人物の形を輪郭以外すべて黒く塗りつぶし、その姿をまるで切り絵のような抽象的な存在にしています。そのシルエットは、カバンを背負い、何かを見上げるような横顔で、彼が通勤や通学の途中で自転車を取りに来た、ごく普通の都市生活者であることを示唆しています。
周りを取り囲む何十台もの自転車の群れは、日常の**「ルーティン」と「大衆性」**を象徴しています。毎日、この場所に自転車を停め、仕事や学校へ向かい、またここへ戻ってくる。この無言の鉄の塊の羅列こそが、都市生活者の生活の基盤を支えているのです。
背後の壁の水平なラインと、天井の規則的な照明が、この空間が人工的に管理された**「秩序の空間」**であることを強調しています。その秩序の中に、個人の意志と孤独を宿したこの黒い人影が立つことで、写真に深い物語性が生まれています。
彼は、これから長い一日を始めるのか、それとも終えて家に帰る途中なのか。その表情も、内面も、この濃い影の中では推し量ることはできません。しかし、この匿名的なシルエットこそが、現代の都市で生きる**「私たち自身」**を映し出しているように感じます。
【撮影】
カメラ:FUJIFILM GFX50S II
設定:ISO1000 1/1000秒
レンズ:不明
